宅建業免許の事務所は、法人登記をして机と電話を置けば認められる、というものではありません。
審査で重視されるのは、主に次の3点です。
- 宅建業を継続して行える独立した区画があること
- 執務場所・応接場所・固定電話など、必要な設備が整っていること
- その場所を事務所として使用できる権利があること
平面図や事務所写真、賃貸借契約などを通じて、事務所としての実態が審査されます。
とくに注意が必要なのが、自宅の一部や他社と同じフロア、レンタルオフィスを利用する場合です。東京都では、自宅の一部や他社との事務所共用は原則として認めない取扱いですが、一定の独立性を備えた形態であれば、個別に認められる場合があります。
物件を契約してから「宅建業の事務所には使えない」と分かれば、移転や内装工事が必要になることもあり、費用だけでなく、開業時期にも影響します。
本記事では、東京都知事免許を前提に、宅建業の事務所要件を、自宅・レンタルオフィス・他社同居といった具体的なケースに沿って解説します。
宅建業免許でいう「事務所」とは
宅建業法上の事務所には、法人の本店・支店のほか、継続して宅建業を行える施設があり、契約締結の権限を持つ者を置く営業所なども含まれます。
名称が「営業所」「店舗」「出張所」であっても、継続的に宅建業を行える施設があり、宅建業に係る契約を締結する権限を持つ者を置く場合は、従たる事務所として取り扱われます。
一方、テント張りの案内所や移動しやすい設備など、継続して宅建業を行える施設とはいえない場所は事務所には当たりません。
特に法人の場合は、本店の扱いに注意が必要です。
支店で宅建業を営むとき、登記上の本店で具体的な不動産取引を行っていなくても、本店は宅建業法上の事務所として取り扱われます。
たとえば、自宅を法人の本店として登記し、別の店舗だけで宅建業を行う予定でも、自宅側について事務所要件を問われる場面が出てきます。
宅建業免許の事務所要件は3つ
東京都は、事務所の独立性、業務設備、使用権原を中心に審査します。
1.独立した区画があること
宅建業の事務所として使用する場所は、住居や他社の事務所、店舗などから明確に区切られていなければなりません。
主なポイントは次のとおりです。
- 壁や固定式の間仕切りなどで区切られている
- 居住部分を通らずに事務所へ出入りできる
- 他社の専用部分を通らずに事務所へ出入りできる
- 宅建業の事務所として専用に使用できる
同じ住所に複数の会社があること自体で直ちに不可となるわけではありません。
判断のポイントは、申請する会社の事務所として独立した空間を持てているかどうかです。
2.宅建業を行える設備があること
申請時点で、継続して宅建業を行える設備が整っていなければなりません。
事務所要件として重要なのは、主に次の3点です。
- 従事者数に応じた机と椅子
- 執務場所と区別された対面可能な応接場所
- 開通済みの固定電話
固定電話は、単に電話機を置くだけでは足りず、申請時点で開通している状態が求められます。
携帯電話だけで宅建業の事務所を運営する形では申請できません。
なお、手引では「最低○㎡」といった一律の面積基準は示されていません。従事者の執務場所と応接場所を持てるだけの広さがあれば足ります。
3.事務所として使用できる権利があること
申請者が、その場所を宅建業の事務所として使用できる契約関係になっていることが求められます。
自己所有であれば所有関係を、賃貸であれば賃貸借契約などで示します。
賃貸物件で見ておきたいのは次のような点です。
- 契約上の用途
- 契約期間
- 事業利用の可否
- 転貸の有無
- 法人名義で使用できるか
- 商号表示が可能か
室内の形が事務所要件を満たしていても、契約上「住居専用」「事業利用禁止」とされていれば、そのまま宅建業の事務所として使用することはできません。
3つの要件は、どれか1つを満たせばよいものではありません。
独立性・設備・使用権原のすべてを満たして申請します。
自宅の一部を宅建業の事務所にできるか
自宅の一部でも、要件を満たせば事務所として申請可能です。
ただし判断されるのは、専用出入口の有無だけではありません。玄関から事務所までの通路、居住部分との間仕切り、部屋の使い方まで含めて審査されます。
専用出入口がなくても申請できる場合がある
住宅とは別に事務所専用の出入口があると、住居との区別を示しやすくなります。
ただし、専用出入口は必須ではありません。住宅の玄関を共用する形でも、居間や台所などを通らずに事務所へ入れる構造なら、申請の余地は残ります。
逆方向の動線も同じです。家族が居住部分へ行くために事務所内を通り抜ける間取りは避けます。
居住部分とは壁で区切る
事務所として使う部屋は、ほかの部屋と壁で間仕切りされているのが基本です。
カーテン、家具、簡易的なついたてだけでは、独立した部屋とは呼べません。ドアがあり、閉めた状態でも事務所区画が独立していると示せる形が求められます。
事務所と生活空間を兼用しない
事務所として申請する部屋は、宅建業の事務所だけに使うのが原則です。寝室、子ども部屋、物置などとの兼用は認められません。
写真にベッド、衣類、生活用品が写り込んでいると、居住用の部屋と見られる恐れがあります。応接場所、執務机、固定電話を配置し、業務専用の部屋だと外観から分かる状態に整えます。
よくある問題ケース
戸建てで多いのが、玄関を入ってすぐリビングを兼ねた広い空間があり、その奥に事務所予定の部屋がある間取りです。この場合、来客も家族もリビングを横切ることになり、独立性を示せません。
マンションでも同様で、玄関からダイニングを通らないと事務所側の部屋に入れない間取りは要注意です。玄関に近い洋室を事務所にあて、家族の生活動線が事務所を通らずに成り立つかどうか、契約前に間取り図で確かめておくと安心です。

自宅全体の間取り図を添付する
自宅を使う場合は、事務所の部屋だけでなく住宅全体の間取り図を添付します。
間取り図では、事務所、居住部分、共用通路を色分けし、玄関から事務所までの経路を示しておきます。写真にも番号を付け、どの位置からどの方向を撮影したのかを間取り図に記入するのが基本です。
事務所の中だけを撮影しても、居住部分との位置関係は伝わりません。玄関、通路、事務所入口、間仕切りまで一連の写真で示すことが欠かせません。
他社と同じフロアを使用する場合
一つのフロアに複数の会社が入っていても、それぞれの専用区画が独立していれば申請可能です。
判断のポイントは、同じ住所かどうかではなく、各社の事務所と共用部分を明確に分けられるかどうか。この一点に尽きます。
各社の専用出入口と通路を分ける
共通の入口から入る形でも、その先に申請会社と他社それぞれの事務所入口があり、共用通路から直接出入りできる構造なら、申請の余地は残ります。
一方、他社の事務所内を通らなければ自社の区画に入れない構造は認められません。共通の入口には、そこを使用する会社の商号をそれぞれ表示し、自社の専用区画の入口にも登記どおりの商号を掲示します。
他社とは固定式の間仕切りで区切る
同じ室内を複数の会社で分ける場合は、不透明で固定されたパーテーションなどを設け、各社の区画を明確に分けます。
移動できるついたてや、視線が通る低いパーテーションでは、独立した事務所と判断されにくくなります。共用通路に他社と共同で使う机やコピー機などが置かれていると、その部分が共用の業務スペースと見られてしまいます。
なお、同じ会社が宅建業と別事業を同じフロアで営む場合も同じ考え方です。物品販売店のレジ横に机を置く形や、店舗の商品陳列スペースを通らないと事務所へ入れない形では、独立性に問題が生じます。

レンタルオフィス・シェアオフィスの扱い
レンタルオフィスでも、独占して使用できる個室があり、通常の事務所と同じ設備を設けられる物件なら、申請できる可能性があります。
鍵付きの個室というだけで認められるわけではなく、室内の広さや設備、共用部分からの動線、契約内容まで個別に見られます。
- 個室内に執務机と応接場所を置けるか
- 開通済みの固定電話を設置できるか
- 個室入口に商号を表示できるか
- 他社の執務場所を通らずに入室できるか
- 契約上、部屋を事務所として独占使用できるか
共用会議室だけを応接場所として使い、専用区画内には従業者の机しか置けない物件は、事務所内部の設備をそろえたとは言いにくくなります。
申請時には、通常の使用権原に関する書面に加え、レンタルオフィスの契約書と、その部屋を独占的に使用できることを証明する書面が必要です。
一方、他社と机を並べるコワーキングスペース、フリーアドレス席、共用の執務エリアを使う形は、自社だけの独立した事務所として示せません。住所利用や郵便物の受取りだけを目的とするバーチャルオフィスも、宅建業を継続して行える実体のある施設を備えていないため、事務所要件を満たしません。
賃貸借契約で注意したい項目
賃貸物件を事務所にする場合、部屋の形だけでなく契約内容も申請に影響します。内見では問題がないように見えても、契約書で事業利用が禁止されていれば申請は通りません。
契約上の用途
賃貸借契約書の用途が「事務所」または「事業用」となっている物件は、使用権限を示しやすい形です。
問題は用途が「住居」となっている場合です。宅建業の事務所として使うことを貸主や管理会社が認めているかがポイントになります。居住専用、事業利用禁止、不特定多数の来客禁止といった条項があるときは、申請前に契約変更か書面による承諾が必要です。
マンションでは、賃貸借契約だけでなく管理規約によって事務所利用が制限されていることもあります。
契約期間
東京都の手引では、契約期間が1年未満の物件は原則として認められないとされています。
短期契約を繰り返す形では、継続して宅建業を行える事務所なのかを示しにくいためです。自動更新の場合は、現在の契約関係と自動更新である旨を申請書類に記載します。
転貸借
物件所有者から直接借りるのではなく、賃借人から転貸を受ける場合は、原契約で転貸が認められているかを確認します。
原契約で転貸が禁止されているなら、物件所有者から事前に承諾を得なければなりません。転貸人との契約書だけでは、宅建業の事務所として使用できる権利を示せないおそれがあります。
法人設立前に契約した場合
会社を設立する前に代表者個人の名義で物件を契約したケースでは、設立後の法人が使用できるように契約名義を変更するか、貸主から法人使用の承諾を得ます。
個人名義の契約をそのまま提出しても、申請法人に使用権限があるとは限りません。東京都の記入例でも、会社設立前の契約については、法人契約への変更が承諾されている旨を記載する扱いが示されています。
事務所写真と平面図の撮り方
宅建業免許申請では、事務所の所在地と独立性を写真で示します。写真は申請日前3か月以内に撮影した、申請時点の状態と一致する鮮明なカラー写真が原則です。
建物外部
建物外部では、主に次の箇所を撮影します。
- 建物全体の外観
- 建物の入口
- テナント表示または集合ポスト
- 事務所の入口
- 入口に掲示した商号
- 入口の扉を閉めた状態と、開けて室内が見える状態
商号は「株式会社」などを省略せず、履歴事項全部証明書のとおりに表示するのが基本です。入口全体の写真で商号が判読できない場合は、商号部分の近接写真も添付します。
通路と間仕切り
自宅や他社同居の事務所では、建物外観と事務所内部だけでは足りません。
玄関やエレベーターから事務所までの通路、居住部分や他社との間仕切り、事務所入口の開閉状態を撮影します。写真に番号を付け、平面図にも同じ番号と撮影方向を矢印で記入すると、写真だけでは分かりにくい位置関係が伝わります。
事務所内部
内部写真では、事務所全体の配置が分かるように複数の方向から広く撮影します。
執務机、椅子、応接場所、固定電話が写り込むようにし、応接場所と執務場所が分かれていることも示します。生活用品、ベッド、私物など、宅建業と関係のないものは置かないのが原則です。窓のブラインドやカーテンは開け、部屋の外部との位置関係が分かる状態で撮影します。
なお、新規免許申請の段階では、宅地建物取引業者票と報酬額表の掲示は原則として不要です。ただし、事務所入口やテナント表示には申請者の商号を掲示しておきます。
物件を契約する前に調べておきたいこと
事務所要件は、専任の宅地建物取引士や必要書類と違い、申請直前になって修正できるとは限りません。
通路の配置を変えられない、貸主から事業利用の承諾を得られない、商号を入口に出せない。こうした問題が出てくると、別の物件を探し直すことになります。
契約前には、少なくとも次の内容を物件資料と平面図から調べておきます。
- 玄関から専用区画まで、他社や居住部分を通らずに入れるか
- 専用区画が壁や固定式の間仕切りで区切られているか
- 従業者の机と、それとは別に応接場所を置けるか
- 固定電話を開通できるか
- 事務所入口や集合ポストに商号を表示できるか
- 契約上、宅建業の事務所として使えるか(用途、事業利用条項、管理規約)
- 契約期間が1年以上あるか
- 転貸や法人利用について所有者の承諾が必要か
自宅、他社同居、レンタルオフィスなど、一般的なテナントと異なる形を予定している場合は、契約前の段階で平面図を用意して相談するのが安全です。東京都の手引でも、例示された形に当てはまらない事務所は、平面図などを持参して問い合わせるよう案内されています。
よくある質問
- 自宅の一室でも申請できますか?
-
条件を満たせば申請できます。玄関から居住部分を通らずに事務所へ入れること、事務所が壁で区切られていること、居住用の部屋と兼用していないことが主な要件です。住宅全体の間取り図と、玄関から事務所までの経路が分かる写真を添付します。
- 事務所専用の出入口は必須ですか?
-
必須ではありません。住宅の玄関を共用する場合でも、居間や台所などを通らずに事務所へ行ける構造で、家族も事務所を通らずに居住部分へ行ける構造であれば申請の余地はあります。
- レンタルオフィスでも申請できますか?
-
独占使用できる個室があり、執務机、応接場所、固定電話などを設けられる物件なら、申請できる可能性があります。契約書に加えて、その部屋を独占的に使用できることを示す書面が必要です。契約前に、商号表示や固定電話の設置が認められているかも確認しておきます。
- シェアオフィスの固定席でも申請できますか?
-
他社と同じ執務空間を使用する固定席やオープンデスクでは、独立した事務所を示せないため申請は困難です。自社専用の個室があり、共用通路から直接出入りできる形が最低条件になります。
- 賃貸借契約書の用途が「住居」でも申請できますか?
-
貸主や管理規約で事業利用が認められているかによります。住居専用や事務所利用禁止の物件では、貸主や管理会社から宅建業の事務所として使用する承諾を得て、契約変更や承諾書を用意する必要があります。
- 事務所に最低面積の決まりはありますか?
-
一律の面積基準はありません。ただし、従業者全員の机と椅子、執務場所と区別された応接場所、固定電話を配置し、継続して業務を行える広さは必要です。
まとめ
宅建業免許の事務所には、独立した区画、業務に必要な設備、そしてその場所を事務所として使用できる権利が求められます。
一般的な事業用テナントであれば要件を整理しやすい一方、自宅や他社と同じフロア、レンタルオフィスを利用する場合は注意が必要です。出入口や通路、間仕切りだけでなく、応接場所や固定電話、契約内容まで審査の対象になります。
事務所要件で問題が見つかると、書類を差し替えるだけでは済まないこともあります。レイアウトの変更や貸主の承諾が必要になり、場合によっては物件を選び直さなければなりません。
開業時期をずらさないためにも、物件を決める前に平面図や契約条件まで整理しておくことが重要です。
東京都の宅建業免許申請をサポートします
宅建業の事務所は、物件を契約する前の要件整理が重要です。
自宅や他社同居、レンタルオフィスなどについて、平面図や契約内容を踏まえ、申請前の段階からご案内いたします。
「この物件で申請できるか分からない」「契約前に事務所要件を見てほしい」といった場合もご相談ください。

