宅建業をやめるときは、店舗を閉めるだけでは手続が終わりません。東京都知事免許の事業者は、原則として廃業等の事由が生じた日から30日以内に、東京都へ廃業等届出書を提出します。届出人は、死亡・合併・破産・解散・廃止のどれに当たるかで異なります。
保証協会の退会や営業保証金の取戻しは、この届出とは別の手続です。一方、更新せずに有効期間が満了しただけなら、廃業届は要りません。この記事では、届出人と期限、必要書類、契約済みの取引を続けられる範囲、保証金の返還までを説明します。
廃業届が必要になる5つの事由
正式な書類名は「廃業等届出書」です。自主的にやめる場合だけでなく、個人事業主の死亡、法人の合併や解散、破産も対象に含まれます。理由ごとに、届出人と期限の起算日が次のように決まっています。
| 廃業等の理由 | 届出人 | 期限の起算日 |
|---|---|---|
| 個人事業主の死亡 | 相続人 | 相続人が死亡の事実を知った日 |
| 合併による法人の消滅 | 消滅した法人の代表役員であった人 | 法人が消滅した日 |
| 破産手続開始の決定 | 破産管財人 | 破産手続開始の決定日 |
| 法人の解散 | 清算人 | 解散した日 |
| 宅建業の廃止 | 法人の代表者または個人事業主本人 | 宅建業を廃止した日 |
いずれも起算日から30日以内に届け出ます。個人事業主の死亡だけは死亡日ではなく、相続人がその事実を知った日から数えます。
会社を残して宅建業だけをやめる場合
法人を解散せず、建設業や不動産賃貸業などの別事業を続けながら宅建業だけをやめるケースもあります。この場合は届出理由を「廃止」とし、代表者が廃業等届出書を提出します。
東京都の手引でも、法人の「廃止」は、法人自体は存続するものの宅建業をやめる場合と位置づけられています。会社の閉鎖や解散を伴わなくても、免許を使った事業を終了するなら届出の対象です。
一時的な休業は廃業とは異なる
取引のない時期がある、店舗を短期間休んでいるといった事情だけで、直ちに廃業になるわけではありません。再開を予定しており、事務所や専任宅建士などの免許要件を維持している場合は、すぐに廃業届を出さない選択もあります。
ただし、宅建業には、休業届を出して免許を長期間休止状態にしておく制度はありません。免許を受けてから1年以内に事業を開始しない場合や、引き続き1年以上事業を休止した場合は、免許の取消事由になります。
また、事務所を解約した、専任宅建士が退職したなど、免許要件を欠いたまま免許を残すこともできません。短期間の休業なのか、宅建業を終了するのかを決め、再開の予定がない場合は廃業届を提出します。
廃業等の日から30日以内に提出する
期限の基準は、書類を準備し始めた日や店舗から荷物を運び出した日ではなく、届出理由に応じた日です。たとえば株主総会の決議で法人を解散したなら、解散日から30日以内に提出します。清算がすべて終わるのを待つのではなく、解散後の早い段階で清算人が届け出ます。
自主的にやめる場合は、いつを廃止日とするかを曖昧にしないことが大切です。新しい媒介契約の受付を停止した日、事務所を閉鎖した日、社内で廃止を決定した日にずれがあるときは、実際に宅建業を終了した日をもとに届出書を作成します。
30日を過ぎても届出は必要
期限を過ぎたからといって、届出が不要になるわけではありません。30日を超えていても、必要書類をそろえて東京都へ提出します。
その際、廃業日が分かる社内資料や登記事項証明書など、経緯を示す書類の提出を求められる場合があります。期限超過が明らかなときは、東京都の担当窓口に提出方法と添付書類を問い合わせてから動くとスムーズです。
廃業届を提出すると免許は使えなくなる
個人事業主の死亡や合併による法人の消滅では、その事実が生じた時点で従前の免許を引き継げなくなります。破産、解散、宅建業の廃止では、届出が行われた時点で免許が効力を失います。代表者や相続人が変わっても、元の免許を別の人や法人へ名義変更して使うことはできません。
廃業後は新しい契約を結べない
免許の失効後は、新たな媒介契約の締結も、宅地や建物の売買を反復継続して行うこともできません。
廃業届の提出前に、広告の掲載停止、ポータルサイトからの物件情報の削除、店舗看板や宅地建物取引業者票の撤去を済ませ、営業中と受け取られる表示を残さないようにします。
契約済みの取引は完了できる場合がある
廃業前に締結していた契約については、その取引を完了させる目的の範囲内で、引き続き宅建業者とみなされます。廃業前に結んだ売買契約の残代金決済や物件の引渡しは、この範囲に含まれます。媒介契約の締結後に事務が残っている場合も同様です。
認められるのはあくまで、廃業前の契約に基づく取引を終える範囲までです。
東京都へ提出する必要書類
東京都知事免許の廃業届では、次の書類を提出します。
- 廃業等届出書2部(原本1部、原本の写し1部)
- 宅地建物取引業者免許証の原本
- 廃業等の事由を示す書類
- 免許証を返納できない場合の紛失届
- 必要に応じて、委任状や本人確認書類
廃業等届出書は、令和7年4月1日以降の様式第3号の5を使用し、届出理由として死亡、合併による消滅、破産手続開始の決定、解散、廃止のいずれかを選びます。
廃業理由ごとの添付書類
廃業等の理由に応じて、次の書類が必要です。
| 廃業等の理由 | 主な添付書類 |
|---|---|
| 合併による法人の消滅 | 消滅日が記載された閉鎖事項全部証明書 |
| 破産手続開始の決定 | 裁判所が発行する破産管財人の証明書 |
| 法人の解散 | 解散日が記載された履歴事項全部証明書 |
| 法人が宅建業だけを廃止 | 原則として添付書類なし |
| 個人事業主の死亡 | 死亡と相続関係が分かる戸籍謄本 |
| 個人事業主が宅建業を廃止 | 原則として添付書類なし |
登記事項証明書や戸籍謄本は、発行日から3か月以内の原本を用意します。また、商号、代表者、事務所所在地が免許上の登録内容から変わっているときは、変更の経緯が分かる履歴事項全部証明書も添付します。変更届を出さないまま廃業するケースでも、現在までの経緯を示す書類が求められます。
免許証を紛失している場合
免許証を紛失して返納できないときは、廃業等届出書に紛失届を添え、届出人の本人確認書類を提出します。本人以外が窓口へ提出する場合は、届出人の本人確認書類の写し、委任状、来庁者の本人確認書類も必要です。
免許証が見つからない場合は、提出前に必要書類を窓口へ確認しておくと進めやすくなります。
法人の解散登記と廃業届は別に行う
法人を解散するときは、法務局で行う解散登記と、東京都へ提出する宅建業免許の廃業届を分けて考えます。先に解散登記を行い、清算人が登記された履歴事項全部証明書を取得したうえで、清算人が廃業等届出書、免許証原本、登記事項証明書を東京都へ提出する流れです。
解散登記だけでは、宅建業免許の廃業手続は完了しません。廃業届が提出されないまま解散の事実が判明した場合は、免許権者による免許取消しの対象になります。会社の解散手続と並行して、宅建業免許、保証協会、営業保証金の手続も進めます。
合併後の法人へ免許は引き継がれない
免許を持つ法人が吸収合併で消滅しても、その免許が存続会社へ自動的に移ることはありません。宅建業免許は、免許を受けた法人そのものに与えられているためです。
存続会社が宅建業を続けるなら、存続会社自身の免許の有無を見ます。持っていなければ、新規申請が必要です。
個人事業主の免許は相続できない
個人事業主が死亡した場合も、相続人が免許を引き継いでそのまま営業を続けることはできません。
宅建業を続けたい相続人は、本人名義または新たに設立した法人で新規免許を申請します。免許を受け、営業保証金の供託または保証協会への加入を済ませるまで、新規の営業は始められません。
更新しない場合に廃業届は必要か
免許の有効期間満了まで営業を続け、そのまま更新しないのであれば、東京都への廃業等届出書は不要です。有効期間の満了による失効は、宅建業法上の廃業等届出とは別の扱いになります。全日本不動産協会東京都本部も、有効期間切れによる消除では東京都庁での手続は不要と案内しています。保証協会に加入している事業者は、更新しない旨を協会へ連絡し、退会手続を行います。
ただし、有効期間が満了する前に事務所を閉鎖し、実際に宅建業をやめていたのであれば、期限切れを待つのではなく、廃止した日から30日以内の廃業届が必要です。
有効期間の満了後は新しい取引ができない
更新しないまま有効期間を迎えると、満了日の翌日から新しい宅建取引はできません。更新しないと決めた段階で、契約の受付停止日と広告の終了日を決めておきます。
保証協会に加入している場合の退会手続
東京都へ廃業等届出書を提出しただけでは、保証協会の退会まで完了しません。届出後、所属する協会へ連絡し、退会手続を別に行います。一般的な流れは次のとおりです。
- 東京都へ廃業等届出書を提出する
- 受付済みの廃業届の控えを受け取る
- 保証協会へ退会届などを提出する
- 協会による公告などの手続を待つ
- 弁済業務保証金分担金の返還を受ける
必要書類や返還時期は、加入している協会によって異なります。
60万円がそのまますぐ戻るとは限らない
保証協会へ納付した本店分の60万円は、正式には弁済業務保証金分担金と呼ばれます。退会手続が終われば返還の対象になるものの、入金されるのは廃業届の提出直後ではなく、協会の公告などを経た後です。
また、加入時に支払った入会金、会費、支部費は分担金とは別の費用で、支払った金額のすべてが戻るわけではありません。協会によっては、未納会費、当年度会費、官報公告料を分担金から差し引いて精算します。廃業する時期によって翌年度の会費が発生するケースもあるため、退会届の締切日は所属協会に問い合わせておくと安心です。
営業保証金を供託している場合の取戻し
保証協会に加入せず、東京法務局へ営業保証金を直接供託している事業者は、廃業後に取戻し手続を行います。本店のみなら供託額は1,000万円です。この金額が自動的に返還されることはなく、取引の相手方が債権を申し出るための期間を設けたうえで取り戻します。
官報公告から取戻しまで6か月以上かかる
東京都知事免許の事業者が直接供託している場合は、おおむね次の順番です。
- 廃業届の提出により免許が失効する
- 官報取扱公告会社へ公告掲載を依頼する
- 官報に営業保証金取戻し公告が掲載される
- 東京都へ営業保証金取戻し公告済届出書を提出する
- 公告掲載日の翌日から6か月間待つ
- 東京都へ債権の申出のない証明を申請する
- 東京法務局で営業保証金の取戻しを行う
官報公告の掲載依頼は、免許の失効後に行います。公告後は官報の電子データを印刷し、営業保証金取戻し公告済届出書とともに東京都へ提出します。
債権の申出のない証明を申請できるのは、公告の翌日から6か月を経過した後です。したがって、廃業から営業保証金の返還までには、少なくとも6か月を超える期間を見込みます。
債権の申出があった場合
公告期間中に取引の相手方から債権の申出があると、「債権の申出のない証明」は交付されません。申出への対応や営業保証金からの還付が終わるまで、全額の取戻しはできない状態が続きます。未完了の取引や顧客との紛争を抱えたまま廃業すると、取戻しまでの期間が延びる可能性があります。
廃業後に宅建業を再開する場合
一度廃業して免許が効力を失うと、廃業届を撤回して元の免許を復活させることはできません。同じ法人が存続していても、再開には新規免許申請が必要で、事務所、専任宅建士、役員の欠格事由について改めて審査を受けます。
新しい免許番号の通知後には、営業保証金を供託するか、保証協会へ再加入します。以前に加入していた協会でも、退会前の会員資格や納付済み費用がそのまま引き継がれるとは限りません。
よくある質問
- 会社を残したまま宅建業だけをやめられますか?
-
やめられます。法人を解散せずに他の事業を続ける場合は、届出理由を「廃止」として、代表者が廃業等届出書を提出します。
- 廃業届を出した後も決済や引渡しはできますか?
-
廃業前に締結した契約に基づく取引であれば、取引を完了させる範囲で行えます。ただし、廃業後に新しい媒介契約や売買契約を結ぶことはできません。
- 免許を更新しなければ、廃業届は出さなくてもよいですか?
-
有効期間の満了まで営業し、そのまま更新しない場合は、東京都への廃業届は不要です。ただし、満了前に実際の営業をやめている場合は、宅建業を廃止した日から30日以内に届け出ます。
- 保証協会へ納めた60万円は全額戻りますか?
-
弁済業務保証金分担金は返還の対象ですが、未納会費や公告料が控除されることがあります。入会金や会費は分担金とは別の費用のため、支払った全額が戻るとは限りません。
- 免許証を紛失していても廃業届を出せますか?
-
提出できます。免許証原本の代わりに、紛失届や届出人の本人確認書類などが必要です。代理人が提出する場合は、委任状と代理人の本人確認書類も用意します。
- 廃業届の提出期限を過ぎてしまいました。どうすればよいですか?
-
期限後でも廃業届を提出してください。廃業日や経緯を示す追加書類が必要になることがあるため、東京都の免許担当窓口に提出方法を問い合わせたうえで進めます。
まとめ
宅建業の廃業では、営業の停止だけで終わらせず、事由が生じた日から30日以内に東京都へ廃業等届出書を提出します。解散、合併、破産、個人事業主の死亡では届出人が異なるため、誰が手続を担うのかを早い段階で決めます。
保証協会に加入していれば、東京都への届出に続けて協会の退会手続へ進みます。営業保証金を直接供託している場合は、官報公告と6か月の申出期間を要するため、資金が戻る時期も見込んだうえで廃業日を設定します。廃業前に締結した契約が残っているなら、決済や引渡しの予定を把握してから新規契約の受付を止めます。
会社の解散登記、宅建業免許の廃業届、保証協会または保証金の手続をそれぞれ分けて進めることが、廃業を滞らせないための基本です。
当事務所では、東京都知事の宅建業免許に関する廃業等届出書の作成に加え、法人の変更状況に応じた添付書類や、保証協会の退会までの流れについてもご案内しています。宅建業免許の手続に関するご相談・お見積もりは無料です。
