建設会社が法人を設立したり、初めて従業員を雇ったりすると、社会保険と労働保険の手続きが必要になります。
関係するのは健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険の4つです。保険ごとに加入対象も届出先も期限も違います。
特に複雑なのが建設業の労災保険です。工事現場と事務所で手続きが分かれるため、一般的な事業より一段複雑になります。一人親方の扱いも独特で、通常の労働者と同じようには加入できません。元請の立場になれば、下請企業や作業員の加入状況まで確かめることになります。
この記事では、建設業に関係する社会保険・労働保険の加入手続き、一人親方の労災特別加入、元請による加入確認について解説します。
建設業に関係する4つの保険
建設業許可の申請で加入状況を問われるのは、健康保険、厚生年金保険、雇用保険の3つです。ここに労働者を使えば必要になる労災保険を足すと、実務で扱う保険は合計4つになります。
労災保険そのものは、建設業許可の社会保険要件には含まれていません。ただし労働者を1人でも使えば加入義務が生じるため、実務上は避けて通れない保険です。
法人・個人事業所の適用早見表
健康保険と厚生年金保険は、法人か個人事業所か、常時使う従業員が何人いるかで加入義務が分かれます。雇用保険と労災保険は、対象となる労働者を使っているかどうかで判断します。
| 事業形態 | 健康保険・厚生年金保険 | 雇用保険 | 労災保険 |
|---|---|---|---|
| 法人 | 原則として強制適用 | 適用要件を満たす労働者を雇えば加入 | 労働者を使用すれば加入 |
| 個人事業所・常時5人以上 | 原則として強制適用 | 適用要件を満たす労働者を雇えば加入 | 労働者を使用すれば加入 |
| 個人事業所・常時5人未満 | 原則として任意適用 | 適用要件を満たす労働者を雇えば加入 | 労働者を使用すれば加入 |
| 一人親方 | 国民健康保険・国民年金など | 原則として対象外 | 特別加入が可能 |
役員1人だけの法人でも、原則として健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所に該当します。役員報酬を受ける代表者も、原則として加入対象です。
一方、建設業を営む個人事業所は、常時使う従業員が5人未満なら健康保険・厚生年金保険については原則として任意適用にとどまります。
雇用保険には、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇用される見込みがあることなど、被保険者となるための要件が設けられています。
健康保険・厚生年金保険の加入手続き
法人を設立した場合や、個人事業所が強制適用になった場合は、管轄の年金事務所へ届け出ます。
主な届出は次のとおりです。
・健康保険・厚生年金保険新規適用届 ・被保険者資格取得届 ・被扶養者(異動)届
新規適用届と資格取得届は、原則として事実が発生した日から5日以内が提出期限です。かなりタイトなので、法人設立と同時に段取りを組んでおくと安心です。
建設国保に加入している法人などでは、健康保険被保険者適用除外承認を受けたうえで、建設国保と厚生年金保険を組み合わせて運用するケースもあります。
ただし、建設国保に入っているというだけで、法人の健康保険の手続きが不要になるわけではありません。ここは誤解の多いところです。
雇用保険の加入手続き
雇用保険の適用要件を満たす労働者を初めて雇った場合は、管轄のハローワークで手続きを行います。
主な届出は次のとおりです。
・雇用保険適用事業所設置届 ・雇用保険被保険者資格取得届
適用事業所設置届の提出期限は、保険関係が成立した日の翌日から10日以内です。被保険者資格取得届は、労働者が被保険者となった月の翌月10日までに出します。
個人事業主本人や法人の代表取締役は、原則として雇用保険の対象になりません。役員、同居親族、短時間勤務者などは、雇用関係や勤務実態から個別に判断します。
建設業の労災保険は工事現場と事務所で分かれる
建設業は、労災保険と雇用保険を分けて手続きする「二元適用事業」です。ここが他業種と大きく違うポイントになります。
さらに、建設工事は原則として工事現場ごとに一つの事業として扱われます。数次の請負による工事では、下請の労働者も含めて元請事業主が現場労災の手続きを行うのが原則です。
元請工事の現場労災
元請として工事を請け負うと、原則として工事ごとに労災保険関係が成立します。一定の要件を満たす小規模な工事は、一括有期事業としてまとめて申告・納付することもできます。
工事現場で下請の労働者がけがをした場合も、原則として元請の現場労災で補償されます。
一方、下請の事業主本人や一人親方は労働者ではないため、通常の現場労災では補償されません。ここは特別加入の必要性につながる重要なポイントです。
事務所や資材置場の労災
建設会社の事務所、資材置場、作業場などで働く自社従業員については、特定の工事現場とは別に、継続事業として労災保険の手続きが必要になる場合があります。
建設業では、次のものを分けて整理しておくことが重要です。
・元請工事の現場労災 ・一括有期事業として扱う工事 ・事務所や資材置場などの労災 ・自社従業員の雇用保険
労働保険の保険関係成立届は、原則として成立日の翌日から10日以内が期限です。概算保険料申告書は成立日の翌日から50日以内に出します。
建設業の労災手続きは、元請・下請の立場や工事の規模で扱いが変わります。実際の届出は管轄の労働基準監督署や社会保険労務士へ相談するのが確実です。
一人親方は労災保険へ特別加入できる
一人親方とは、労働者を使わず、自ら請負人として建設工事に従事することを常態とする個人事業主のことです。
一般的な加入先は次のようになります。
・医療保険:国民健康保険または建設国保 ・年金:国民年金 ・雇用保険:原則として対象外 ・労災保険:特別加入が可能
一人親方は事業主なので、通常の労災保険の対象にはなりません。とはいえ、建設業では作業中の事故リスクが高いため、一人親方向けの特別加入制度が用意されています。
特別加入は、労働局の承認を受けた一人親方団体を通じて申し込みます。個人が直接、労働基準監督署へ申し込む制度ではありません。
法律上、一人親方の特別加入がすべての現場への入場条件とされているわけではないものの、実際には元請から加入証明の提出を求められる場面が多くあります。
契約名だけで一人親方とは決まらない
契約書に「請負」「業務委託」と書かれていても、実際の働き方が労働者と変わらなければ、労働者として扱われることがあります。
一人親方か労働者かは、主に次の事情から総合的に判断します。
・仕事を断る自由があるか ・具体的な作業方法について指揮命令を受けているか ・勤務時間や作業場所を拘束されているか ・報酬が仕事の完成ではなく労働時間を基準に支払われているか ・工具、材料、機材などを誰が負担しているか ・他社の仕事を自由に受けられるか
実態は労働者なのに、社会保険料の負担を避ける目的などで一人親方として扱うことは、「偽装一人親方」として問題視されます。
労働者と判断されれば、本来必要だった社会保険への加入を求められるほか、元請から現場入場を認められない可能性もあります。
元請には下請企業と作業員の加入確認が求められる
元請になると、自社だけでなく、下請企業と作業員の社会保険加入状況まで確かめる立場になります。
施工体制台帳、再下請負通知書、作業員名簿などを使って、次の事項を整理します。
・下請企業の健康保険・厚生年金保険・雇用保険の加入状況 ・制度上の適用除外に当たるか ・各作業員が適切な保険へ加入しているか ・一人親方が労災保険へ特別加入しているか
国土交通省の下請指導ガイドラインでは、適用除外ではないのに社会保険へ加入していない企業を下請として選定しないこと、適切な加入を確認できない作業員は特段の理由がない限り現場へ入場させないことが示されています。
これは法律上の一律の入場禁止とは違います。ただし実際の建設現場では、加入確認が下請選定や入場の条件になる場面が少なくありません。
加入状況の確認にはCCUSを活用する
作業員の社会保険加入状況は、建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録情報を使って確認するのが原則とされています。
CCUSを利用していれば、登録情報から加入状況を確認できるため、原則として確認書類の添付は要りません。
CCUSを使わない場合は、元請から次のような書類を求められることがあります。
・資格情報のお知らせ ・資格確認書 ・マイナポータルに表示される被保険者資格情報 ・標準報酬決定通知書 ・雇用保険被保険者証 ・一人親方労災保険の加入証明書
提出するときは、確認に必要のない記号番号、基礎年金番号、マイナンバーなどの個人情報を黒塗りにします。
見積書には法定福利費を内訳として記載する
健康保険、厚生年金保険、雇用保険などの事業主負担分は、建設工事に必要な法定福利費です。
建設業者には、工事内容に応じて法定福利費を内訳に記載した見積書を作成するよう努めることが求められています。
下請業者が社会保険へきちんと加入するには、保険料の原資となる法定福利費が請負代金に含まれていなければなりません。
元請の側は、下請から出てきた見積書の法定福利費を尊重し、必要な費用を一方的に減額しない姿勢が重要になります。
よくある質問
- 雇用保険と労災保険の加入対象は同じですか?
-
同じではありません。
労災保険は、原則として労働者を1人でも使えば対象になります。一方の雇用保険は、週の所定労働時間や雇用見込み期間などの要件を満たす労働者だけが対象です。
そのため、労災保険の対象でも、雇用保険の被保険者にはならないケースがあります。。
- 一人親方は労災保険に加入できますか?
-
通常の労災保険の対象にはなりませんが、一人親方団体を通じて特別加入できます。
現場によっては加入証明を求められるため、請負先の条件も事前に確かめておくと安心です。
- CCUSを使っていない場合は何を提出しますか?
-
元請が指定する健康保険・厚生年金保険・雇用保険の加入確認資料を提出します。
代表例としては、資格情報のお知らせ、資格確認書、マイナポータルの資格情報、標準報酬決定通知書、雇用保険被保険者証などが挙げられます。
必要のない個人情報は黒塗りにしてから提出します。
- 建設業許可の申請前に、社会保険の加入手続きは済ませる必要がありますか?
-
必要があります。適用事業所に当たる場合は、建設業許可を申請する前に、健康保険・厚生年金保険・雇用保険への加入手続きを済ませておかなければならず、未加入のままでは許可を受けられません。一方、従業員のいない個人事業主など、制度上の適用除外に当たる場合は加入は不要です。許可申請では、加入済みであることを示す資料、または適用除外に当たることを示す資料のいずれかを提出します。
まとめ
建設業で主に関係するのは、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険の4つです。
健康保険・厚生年金保険は、法人か個人事業所か、常時使う従業員数によって加入義務が分かれます。雇用保険と労災保険は、対象となる労働者を使っているかどうかで判断します。
建設業の労災保険は、元請工事の現場労災、一括有期事業、事務所などの労災を分けて手続きする点に特徴があります。
一人親方は通常の労災保険の対象ではないものの、団体を通じて特別加入できます。ただし契約上は一人親方でも、働き方の実態が労働者であれば、社会保険への加入が必要になることがあります。
元請になる場合は、施工体制台帳、作業員名簿、CCUSなどを使い、下請企業と作業員の加入状況を確かめます。
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