従業員を3人雇って内装工事を営む個人事業主が、500万円以上の工事を受けるために建設業許可を申請するとします。
この場合、健康保険・厚生年金保険は原則として適用除外です。事業所として加入する義務がないので、協会けんぽや厚生年金へ切り替えていなくても、それだけで許可が取れなくなることはありません。
一方、週20時間以上働き、31日以上雇われる見込みの従業員がいるなら、雇用保険には入らなければなりません。
建設業許可で求められるのは、3つの保険すべてに入ることではなく、自社に加入義務がある保険へ正しく入っていること。ここを取り違えると、要らない手続きに時間を使うことになります。
社会保険は2020年から許可要件|加入義務は事業形態で変わる
2020年10月1日から、適切な社会保険への加入が建設業許可の要件になりました。
対象は次の3つです。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
審査されるのは新規申請だけではありません。般・特新規、業種追加、更新。どの申請でも加入状況を問われ、本来入るべき保険に未加入のままなら、手続きを済ませるまで許可は下りません。
なお、労災保険はこの3つに含まれません。もっとも、労働者を雇うなら労災保険の手続きも別に要ります。
加入義務の範囲は、法人か個人事業主か、そして従業員数によって変わります。全体像は次の図解のとおりです。
適用除外なら社会保険に入っていなくても申請できる
適用除外と未加入。響きは似ていますが、許可申請での扱いはまったく別物です。
適用除外は、法律上その保険へ入る義務がない状態です。申請書に「適用除外」と記載すればよく、許可の妨げになりません。一方の未加入は、義務があるのに手続きをしていない状態で、こちらは加入を済ませるまで許可を受けられません。
たとえば従業員のいない一人親方なら、健康保険・厚生年金・雇用保険とも原則適用除外です。逆に、役員報酬を受け取る社長がいる法人が健康保険・厚生年金に入っていなければ、原則として未加入に当たります。
元請から「社会保険に入っていないと現場に入れない」と言われることもありますが、許可の審査で問われるのは加入義務の有無です。義務のない保険への加入まで求められるわけではありません。
法人は社長一人でも健康保険・厚生年金に加入する
社長一人、従業員なし。それでも法人である以上、健康保険・厚生年金の適用事業所になります。
常勤して役員報酬を受け取っていれば、社長本人が加入対象です。従業員を雇っているかどうかでは決まりません。例外は、役員報酬がなく被保険者になる人がいないような会社で、扱いが変わる場合があります。当てはまりそうなら、申請前に年金事務所へ自社の適用状況を問い合わせておいてください。
従業員を雇い、その人が雇用保険の対象になるなら、雇用保険にも加入します。役員だけで運営する法人は、雇用保険については原則適用除外です。
個人事業主は常用従業員5人で扱いが変わる
分かれ目は5人。個人事業主は、常用従業員が5人以上か4人以下かで、健康保険・厚生年金の扱いが変わります。数えるのは家族従業員を除いた人数で、事業主本人も含めません。
従業員5人以上なら健康保険・厚生年金に加入する
建設業の個人事業所で常用従業員が5人以上いれば、健康保険・厚生年金の適用事業所です。年金事務所へ新規適用届などを出し、対象になる従業員の資格取得手続きを進めます。ここで注意したいのが事業主本人の扱いで、本人は通常「事業所に使用される者」に当たりません。事業所が適用対象になっても、本人は原則として国民健康保険・国民年金のままです。
従業員1~4人なら健康保険・厚生年金は原則適用除外
常用従業員が1~4人の個人事業所は、健康保険・厚生年金の強制適用から外れます。事業所として協会けんぽや厚生年金に入っていなくても、建設業許可では「適用除外」の扱いです。従業員それぞれは、国民健康保険や国民年金、家族の扶養など、本人の状況に合った制度を使います。
従業員の半数以上の同意を得て任意適用を申請すれば、健康保険・厚生年金への加入も可能です。
一人親方は3つの保険が原則適用除外
従業員を雇わない一人親方は、健康保険・厚生年金・雇用保険とも原則適用除外です。
国民健康保険と国民年金のままでも、それを理由に建設業許可が取れなくなることはありません。申請書には、加入状況を「適用除外」と記載します。
気を付けたいのは、契約書の上では一人親方でも、実際には特定の会社から勤務時間や作業方法の指示を受けて働いている場合です。実態が雇用なら、請負契約という名称だけで社会保険の扱いは決まりません。
雇用保険は対象になる労働者を雇うと必要になる
雇用保険の要否は、法人か個人事業主かではなく、対象になる労働者を雇っているかどうかで決まります。
原則として、次の両方を満たす労働者が対象です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上雇用される見込みがある
この条件を満たす従業員がいれば、健康保険・厚生年金が適用除外の個人事業所でも、雇用保険には入らなければなりません。
冒頭の従業員3人の個人事業主が典型です。健康保険・厚生年金は原則適用除外でも、3人が条件を満たしていれば雇用保険への加入が必要です。
個人事業主本人や法人の代表者は、原則として雇用保険の対象外です。同居の親族も通常は入りませんが、ほかの従業員と同じように指揮命令を受け、勤務時間や賃金を管理されているなら、例外的に労働者として扱われることがあります。
なお、健康保険・厚生年金の加入基準と、雇用保険の週20時間・31日の要件は別の制度です。パートやアルバイトを雇うときは、それぞれ分けて判断します。
建設国保なら協会けんぽへ移らずに申請できる
東京土建国保をはじめとする国民健康保険組合、いわゆる建設国保を使ったまま法人化する。このとき、協会けんぽへの入り直しは必須ではありません。手続きを踏めば、法人化した後や、個人事業所の従業員が5人以上になった後も、建設国保を続けられます。
手順はこうです。年金事務所へ健康保険被保険者適用除外承認申請書を出し、承認を受けます。そのうえで厚生年金に入れば、建設国保と厚生年金の組み合わせで建設業許可を申請できます。
建設国保に入っているからといって、厚生年金まで適用除外になるわけではありません。法人や従業員5人以上の個人事業所は、厚生年金の加入を別に進めます。
健康保険の適用除外承認申請は、原則として事実発生日から14日以内に行います。法人化や従業員増加の予定があるなら、建設国保と年金事務所へ早めに問い合わせておきましょう。
東京都では保険料の納付資料を提出する
東京都知事許可の申請では、「健康保険等の加入状況」の記載に加えて、それを裏付ける資料を出します。
健康保険・厚生年金で使われるのは、たとえば直近の以下の資料です。
- 保険料納入告知額・領収済通知書
- 納入告知書、納付書、領収証書
- 社会保険料納入確認書
- 健康保険組合が発行した保険料領収証書
- 厚生年金保険料の納付資料
加入したばかりで納付実績がないときは、資格取得確認・標準報酬決定通知書や、年金事務所の受付印がある新規適用届などで代えられます。
雇用保険では、この組み合わせが代表的です。
- 労働保険概算・確定保険料申告書と領収済通知書
- 労働保険料等納入通知書と領収済通知書
- 労働保険事務組合が発行した領収書など
加入直後で保険料の納付実績がない場合は、領収済通知書を省略できる扱いがあります。何を出すかは加入先や納付方法で変わるので、申請時点の東京都の手引に合わせてそろえます。
加入状況が変わったら2週間以内に届け出る
建設業許可を取った後に健康保険・厚生年金・雇用保険の加入状況が変わったら、変更後2週間以内に東京都へ変更届を出します。
対象になるのは、たとえばこうした変更です。
- 適用除外から加入へ変わった
- 加入していた保険が適用除外になった
- 建設国保へ切り替えた
- 事業所整理番号や労働保険番号が変わった
加入している従業員の人数だけが変わったのなら話は別で、事業年度終了後の決算変更届にあわせて届け出れば足ります。
加入状況そのものの変更と、人数だけの変更では提出の時期が違います。更新申請までそのままにしないよう注意してください。
よくある質問
- 個人事業主で従業員が3人います。厚生年金に入らないと許可は取れませんか?
-
原則として、厚生年金に入らなくても申請できます。常用従業員5人未満の個人事業所は、健康保険・厚生年金が適用除外だからです。
ただし、雇用保険の条件を満たす従業員がいるなら、雇用保険への加入が要ります。
- 一人会社でも健康保険・厚生年金への加入が必要ですか?
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社長が常勤して役員報酬を受け取っている通常の一人会社なら、原則として加入が必要です。
役員報酬がなく、被保険者になる人がいない場合は扱いが変わる可能性があるため、年金事務所に問い合わせてから申請を進めます。
- 個人事業主で従業員が5人になったら、事業主本人も厚生年金に入りますか?
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原則として入りません。健康保険・厚生年金の対象は、適用事業所に使用される従業員です。
個人事業主本人は通常、国民健康保険と国民年金を続けます。
- 建設国保に入っています。協会けんぽへの切り替えが必要ですか?
-
必ずしも要りません。年金事務所から健康保険の適用除外承認を受け、厚生年金に入っていれば、建設国保を続けられる場合があります。
建設国保への加入だけでは足りないので、厚生年金の加入状況もあわせて確かめます。
- 社会保険へ加入したばかりで、まだ領収書がありません。申請できますか?
-
加入手続きが済んでいれば、申請できる場合があります。
健康保険・厚生年金は新規適用届や資格取得に関する通知書、雇用保険は概算保険料申告書など、加入直後でも使える資料を出します。
まとめ
建設業許可で問われるのは、すべての事業者が同じ社会保険に入っているかどうかではありません。自社に加入義務がある保険へ入っているか。判断の軸はこの一点です。
法人は、社長一人でも健康保険・厚生年金へ原則加入します。個人事業主は、家族従業員を除く常用従業員5人が分かれ目。5人未満の個人事業所や一人親方は、健康保険・厚生年金が適用除外のままでも申請できます。
雇用保険は別の物差しで判断し、週20時間以上・31日以上の雇用見込みがある従業員を雇うなら加入が要ります。
許可取得後に加入状況が変わったときは、2週間以内の変更届も必要です。
建設業許可の申請でお困りの方へ
社会保険の扱いは、法人か個人事業主か、従業員数、勤務時間、建設国保の利用状況によって変わります。
当事務所では、葛飾区を拠点に、東京都知事の建設業許可申請をサポートしています。許可申請で必要になる加入区分の見方や、東京都へ提出する資料についてご相談いただけます。
なお、健康保険・厚生年金・雇用保険への加入手続きそのものは、年金事務所、ハローワークまたは社会保険労務士へご案内します。
新規申請9.9万円~(税込)

