元請から「建設業許可を取っておいてほしい」と言われたとき、多くの事業者が最初に気にするのは、申請にどれくらい時間がかかるかという点です。
しかし、実際に準備を始めると、時間の問題だけでは済まないことがあります。
経営経験を証明できない。
営業所に置く技術者がいない。
自己資本が500万円に届かない。
過去の事情が欠格事由に当たるかもしれない。
このように、建設業許可は「申請すれば取れるもの」ではありません。いくつかの要件を一つずつ満たして、初めて取得できる制度です。
特に、500万円以上の工事を受けたい場合や、元請から許可取得を求められている場合は、焦って申請に進む前に、自社がどの要件でつまずきそうなのかを見ておく必要があります。
東京都知事許可の新規申請手数料9万円は、不許可になっても戻りません。 原因を見誤ったまま申請すると、手数料だけでなく、準備にかけた時間まで失いかねません。
この記事では、建設業許可が取れない主な原因と、すぐに取れない場合の現実的な対処法をまとめました。
建設業許可は1つでも要件が欠けると取れない
建設業許可は、主な要件をすべて満たして初めて取得できます。
「ほとんど満たしているから大丈夫」という制度ではありません。経管がいても営業所技術者が欠ければ取れませんし、資格者がいても財産的基礎を満たせなければ申請は前に進みません。
建設業許可でつまずきやすい原因は、主に以下の7つです。
- 経営業務の管理責任者等、いわゆる経管の要件を満たす人がいない
- 営業所技術者の要件を満たす人がいない
- 自己資本500万円以上、または500万円以上の資金調達能力を示せない
- 役員等に欠格事由に該当する人がいる
- 請負契約について誠実性を疑われる事情がある
- 必要な社会保険に加入していない
- 経験や常勤性を示す書類が足りない
最初にすべきことは、どの要件で申請が止まりそうなのかを見極めることです。原因が分かれば、採用する、資格を取る、資金を整える、申請時期をずらすなど、その後の動き方を決めやすくなります。
経管を証明できないと許可は取れない
経管とは、建設業の経営経験を持つ人のことです。正式名称は「経営業務の管理責任者等」。
一般的には、建設業について5年以上の経営経験がある人を、常勤役員等として置くことが求められます。ここでよく問題になるのは、経験そのものよりも、その経験を資料で示せるかどうかです。
たとえば、こんな状況では経管要件で申請の準備が止まりやすくなります。
- 個人事業主として長く建設業を営んでいたが、確定申告書や請求書が残っていない
- 法人の役員経験はあるが、その会社が建設業を営んでいた資料を出せない
- 過去の勤務先が廃業していて、証明資料を集めにくい
- 役員登記はあるものの、建設業の経営に関わっていたか分かりにくい
経管の証明では、登記事項証明書、確定申告書、請負契約書、注文書、請求書などを使います。過去5年分をさかのぼることが多く、資料が散らばっていると、集めるだけでもかなりの時間を取られます。
個人事業主として長く現場をやってきた一人親方なら、この経験をどう証明するかが最初の関門になります。確定申告書、請求書、契約書、入金記録などの残し方ひとつで、申請のしやすさは大きく変わります。
社内に経管候補がいないときは、要件を満たす人を常勤役員として迎えるか、自社で経験年数が積み上がるまで待つことになります。名義だけ借りる方法は使えません。 実際に会社の経営業務に関わる体制が欠かせません。
営業所技術者がいないと許可は取れない
営業所技術者とは、営業所ごとに置く技術者のことです。以前の呼び名は「専任技術者」。令和6年改正により、条文上の名称が「営業所技術者」に変わっています。
営業所技術者は、取りたい業種ごとに要件を満たさなければなりません。たとえば電気工事業を取りたいなら、電気工事業に対応する資格や実務経験が必要です。内装仕上工事業、管工事業、塗装工事業など、業種が変われば使える資格や必要な経験も変わります。
営業所技術者で問題になりやすいのは、たとえば以下のような状況です。
- 業種に対応する国家資格者がいない
- 実務経験はあるが、10年分の資料を出せない
- 指定学科卒のルートを使いたいが、卒業証明書や実務資料が足りない
- 営業所が複数あり、それぞれに技術者を置けない
- 資格者はいるが、常勤性や専任性を示しにくい
実務経験で証明するときは、過去の工事について、契約書、注文書、請求書、施工体制台帳などをそろえます。実際に経験があっても、資料がなければ年数として認められないことがあります。
同じ営業所であれば、経管と営業所技術者を同じ人が兼ねられる場合があります。小規模な会社では、この兼任が使えるかどうかも重要です。
なお、令和6年12月13日以降、一定の要件を満たす場合には、営業所技術者等が工事現場の技術者を兼ねられる特例も設けられています。ただし、自由に兼務できるわけではありません。工事の内容、営業所との距離、連絡体制などを含めて、実際に使えるかを個別に判断することになります。
財産的基礎を満たせないと申請で止まりやすい
財産的基礎は、見落とされやすい割に、申請直前で問題になりやすい要件です。
- 会社設立時の資本金が300万円のままになっていないか。
- 赤字が続いて、純資産が削れていないか。
- 残高証明を取ろうとして初めて、口座残高が500万円を下回っていると気づくのではないか。
一般建設業許可では、簡単にいえば、建設業を続けるだけの資金面の土台があるかを審査されます。
新規申請で問題になりやすいのは、主に以下の2つです。
- 自己資本が500万円以上ある
- 500万円以上の資金調達能力がある
法人の場合は、直前決算の貸借対照表にある純資産合計が一つの判断材料になります。自己資本で届かないときは、金融機関が発行する500万円以上の残高証明書などで示す方法を検討します。
自己資本が500万円に届かない場合でも、資金調達能力を示せれば申請できる可能性があります。 ただし、残高証明書は申請日前1か月以内のものを求められるのが通例です。申請直前だけ無理に資金を動かすより、事業資金として無理のない形で整えておきましょう。
特定建設業を取りたい場合、財産要件はかなり厳しくなります。資本金2,000万円以上、自己資本4,000万円以上などが求められ、決算の段階からの準備が欠かせません。下請に大きな金額で出す予定があるなら、一般建設業で足りるのか、特定建設業まで必要なのかを先に判定しておきましょう。
役員等に欠格事由があると法人ごと許可を取れない
欠格事由とは、一定の刑罰歴や暴力団関係など、許可を受けられない事情のことです。
法人の場合、代表者だけでなく、役員等に欠格事由に該当する人が一人でもいると、会社として建設業許可を取れません。
主な欠格事由は以下のとおりです。
- 破産手続開始の決定を受け、まだ復権していない
- 不正の手段で許可を受けたことなどにより、許可取消しから5年を経過していない
- 拘禁刑以上の刑を受け、刑の執行を終えてから5年を経過していない
- 建設業法、建築基準法、宅建業法、労働基準法などの一定の法令違反で罰金刑を受け、5年を経過していない
- 暴力団員、または暴力団員でなくなってから5年を経過していない
- 暴力団員等が事業活動を支配している
2025年6月1日以降は、刑法改正により「懲役」「禁錮」が「拘禁刑」に一本化されました。過去の懲役・禁錮も、欠格事由の判断では読み替えて考えます。
執行猶予にも注意してください。執行猶予期間中は欠格事由に当たります。ただし、執行猶予期間を無事に満了すれば、刑の言渡しの効力が失われるため、その時点で欠格から外れると考えられます。
過去の刑罰歴や処分歴が気になるときは、自己判断で進めず、申請前に許可行政庁や専門家に相談しておく方が安全です。
誠実性・社会保険・書類不備でも申請は進まない
建設業許可の審査では、経管や営業所技術者だけでなく、誠実性や社会保険の加入状況も問われます。
誠実性とは、請負契約について不正または不誠実な行為をするおそれが明らかでないことです。過去に建設業法違反で処分を受けた、契約をめぐる重大なトラブルがある、請負契約で不正な行為をしたと疑われる事情がある。こうした場合は、誠実性の要件で問題になる可能性があります。
社会保険も同じで、加入義務があるのに未加入のままだと許可は進みません。法人や、常時5人以上を雇う個人事業主などは、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の加入状況を審査されます。
書類不備もよくつまずく原因の一つ。軽い記入漏れであれば補正で済むこともあります。しかし、経管や営業所技術者の証明資料そのものが足りないと、申請を進めるのは難しくなります。
書類が足りないからといって、内容を作ってはいけません。許可申請書や添付書類に虚偽の記載をして提出すると、罰則や許可取消しにつながるおそれがあります。 足りない資料をどう補うか、別の資料で示せるかを検討することが大切です。
すぐに許可が取れないときの選択肢
今すぐ建設業許可が取れなくても、事業を止めずにできる準備は残っています。
大前提は、許可が必要な工事を無許可で請け負わないことです。そのうえで、現在の状況に合わせて現実的な対応を選びます。
軽微な建設工事の範囲で営業を続ける
建築一式工事以外であれば、税込の請負代金が500万円未満の工事は、原則として建設業許可がなくても請け負えます。
建築一式工事の場合は、1件の税込請負代金が1,500万円未満の工事、または延べ面積150㎡未満の木造住宅工事が軽微な建設工事に該当します。
ただし、1つの工事を形式だけ分けて500万円未満に見せる方法は避けてください。実質的に一体の工事と判断されれば、合算して扱われる可能性があります。
建設業許可が不要な軽微な建設工事でも、電気工事業登録や解体工事業登録など、別の登録・届出が必要になる場合があります。建設業許可の要否とは別に、業種ごとの規制も調べておきましょう。
要件を満たす人を採用する
経管や営業所技術者がいないなら、要件を満たす人を採用する道も選べます。
ただし、名義だけ借りることはできません。経管であれば常勤役員等としての実態、営業所技術者であれば常勤性や専任性が求められます。実際にその会社で勤務し、営業所で職務を行う体制が前提です。
採用の際は、資格証、過去の実務経験、社会保険の加入状況なども事前にチェックしておきましょう。採用してから要件を満たせないと分かると、申請準備がまた止まってしまいます。
資金を整えて申請時期をずらす
自己資本や口座残高が500万円に届かないなら、増資、利益の積み上げ、借入、残高証明の準備などを検討します。
無理に申請を急ぐより、数か月後の決算や資金計画に合わせた方が、結果的にスムーズに進むかもしれません。
財産的基礎は、申請直前になって慌てやすい要件です。許可を取りたい時期から逆算して、決算書や残高証明の準備を進めておきましょう。
元請に取得予定を伝えて待ってもらう
元請から許可取得を求められているなら、今すぐ取れるのか、数か月の準備が要るのかを正直に伝えることも大切です。
許可が下りるまで、許可が必要な金額の工事を無許可で請け負うことはできません。取得予定時期や、当面受けられる工事の範囲を説明し、発注時期を調整してもらうのも現実的な選択肢でしょう。
「いつ頃申請できそうか」「どの要件が不足しているのか」「取得までに何を進めるのか」を説明できると、元請側も判断しやすくなります。
なお、営業所を東京都内だけに置くのか、複数の都道府県に置くのかで、知事許可と大臣許可のどちらになるかが変わります。今後の出店予定や営業所展開があるなら、早めに方向性を決めておきましょう。
不許可になったら手数料9万円は戻らない
東京都知事許可の新規申請手数料9万円は、不許可になっても戻りません。
再申請するときは、欠けていた要件を整えたうえで、改めて新規申請を行います。前回と同じ状態で出し直しても、同じ理由で止まる可能性が高いでしょう。
不許可の判断に納得できなければ、審査請求や取消訴訟という手段も残されています。ただ、実際に要件を満たしていないのであれば、争うより要件を整えた方が早いことも多いです。
申請前の段階で、経管、営業所技術者、財産的基礎、欠格事由、社会保険、証明資料を一通り見直しておくこと。 それが、無駄な申請を避ける近道になります。
よくある質問
- 建設業許可が取れない原因で多いものは何ですか?
-
多いのは、経管、営業所技術者、財産的基礎、欠格事由のどれかです。特に、経験はあるのに書類で示せない、営業所に置く技術者がいない、というつまずき方が目立ちます。
- 不許可になったら申請手数料9万円は返ってきますか?
-
返ってきません。東京都知事許可の新規申請手数料9万円は、許可・不許可にかかわらず戻らない決まりです。再申請するときは、改めて手数料がかかります。
- 経管がいない場合、自分で経験を積めばなれますか?
-
建設業に関する経営経験を5年以上積めば、ご自身が経管候補になれる可能性があります。法人なら役員としての経験、個人事業主なら事業主として建設業を営んだ期間が対象です。
ただし、年数だけでは足りません。その経験を資料で示せるかどうかが問われます。確定申告書、登記事項証明書、契約書、注文書、請求書などを残しておいてください。
- 営業所技術者は資格がないと認められませんか?
-
資格がなくても、実務経験で要件を満たせる場合があります。ただし、業種ごとに必要な経験年数や証明資料は変わるため、契約書、注文書、請求書、施工体制台帳などで経験を示せるかどうかがカギになります。
資格で満たせるなら、実務経験を長期間さかのぼるより、準備の負担を抑えられるかもしれません。
- 自己資本が500万円未満でも申請できますか?
-
自己資本が500万円未満でも、500万円以上の資金調達能力を示せれば申請できる可能性があります。代表的なのは、金融機関が発行する500万円以上の残高証明書です。
ただし、残高証明書には有効な期間があるため、申請時期に合わせた準備が欠かせません。
- 元請から許可を取るように言われたら、まず何をすればいいですか?
-
まずは、許可が必要な工事なのかを判定します。そのうえで、経管、営業所技術者、財産的基礎、欠格事由、社会保険、証明資料を順番に見ていきます。
すぐに許可を取れなくても、取得予定時期や当面受けられる工事の範囲を元請に伝えれば、発注時期を調整してもらいやすくなります。
まとめ
建設業許可が取れない原因は、主に経管、営業所技術者、財産的基礎、欠格事由、社会保険、書類不備のどれかです。
大切なのは、申請前にどの要件でつまずいているかを突き止めること。原因さえ分かれば、採用する、経験を積む、資格を取る、資金を整える、申請時期をずらすなど、現実的な対応を選べます。
東京都知事許可の新規申請手数料9万円は、不許可でも戻りません。準備不足のまま進めるより、先に要件を見直してから申請した方が、結果的に許可へ近づきやすくなります。
建設業許可は、申請してみないと分からないものではありません。
経管、営業所技術者、財産的基礎、欠格事由などを事前に見ておくことで、申請できる見込みがあるか、どこを整える必要があるかを判断できます。
まだ申請できるか分からない段階でも、ご相談ください。
当事務所では、葛飾区を拠点に、東京都全域の建設業許可申請をサポートしています。
新規申請 9.9万円〜(税込)

