せっかく苦労して古物商許可を取得すると、「これでようやく、自分の好きなように商売ができる」と、ゴールに到達したような気分になってしまいますよね。
実は、許可を取っただけでは不十分で、営業中に必ず守らなければならない「三大義務」があります。これを怠ると、営業停止や許可取り消し、最悪の場合は刑事罰を受ける可能性もあります。
この記事では、古物商の三大義務(本人確認・不正品申告・取引記録)と違反時の罰則、実務上の注意点を、古物の現場からの実務経験をもとに解説します。
古物商の三大義務とは?
古物営業法では、盗品の流通防止と被害回復のため、古物商に3つの義務が求められています。
①本人確認義務
誰から買ったかを確認する
②不正品申告義務
盗品を警察に申告する
③取引記録義務
帳簿をつけて3年間保存する
これらは「知らなかった」では済まされない重要なルールです。一つずつ詳しく見ていきましょう。
①本人確認義務:誰から買ったかを確認する

古物商が古物を買い取る際、または交換する際には、相手方の住所、氏名、職業、年齢を確認しなければなりません(古物営業法第15条)
確認が必要なタイミング
- お客様から中古品を買い取る時
- 他の中古品と交換する時
- 買取や交換の委託を受ける時
具体的な確認方法
確認方法は、対面取引と非対面取引で異なります。
対面取引の場合:
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- 在留カード
- 健康保険証(+補助書類)
※これまで本人確認書類の定番だった「健康保険証」ですが、2024年12月の新規発行停止やマイナンバーカードへの移行に伴い、取り扱いを終了する買取店が増えています。 顔写真がない保険証はなりすましのリスクが高いため、現場の実務としては「運転免許証」や「マイナンバーカード」の提示をお願いするのが最も確実で安全です。
身分証明書の提示を受け、その内容を記録(コピー)します。
非対面取引(宅配買取)の場合:
ここが最も間違いやすいポイントです。「免許証のコピーを送ってもらうだけ」では不十分(違法)です。
法律できめられた下のいずれかの方法が必要です
- 本人限定受取郵便で現金や書類を送り、到達を確認する
- eKYC(オンライン本人確認)を利用し、顔写真と身分証を照合する
- 住民票の写しの原本を送ってもらい、転送不要の書留で到達確認をする
非対面取引(宅配買取)の場合、本人確認の方法が異なります。詳しくは→宅配買取の本人確認|法定の3つの方法
本人確認が免除されるケース
買い取り総額が1万円未満の場合は、原則として本人確認義務が免除されます。
ただし、以下の品目は1万円未満でも本人確認が必須です:
- 自動二輪車・原付(部品含む)
- ゲームソフト
- CD・DVD・BD
- 書籍
これらの品目は、青少年の万引きや盗難被害が多いため、金額に関わらず免除されません。品目については古物商の13品目とは?選び方と変更方法で詳しく解説しています。
実務での注意点
私は現在も大手質屋チェーンの店長として勤務しており(業界歴10年以上)、日々、ブランド品・貴金属・時計の買取・販売を行っています。
だからこそ、書類上の知識だけでなく、現場で使える実践的な情報をお伝えできます。
私からのアドバイス:
- 身分証のコピーを取るだけでは不十分な場合がある
- 偽造身分証に注意(運転免許証の特殊加工やホログラムを確認)
- 未成年者からの買取は保護者の同意が必要
- 買取の業務では、金額に関わらず全ての取引で本人確認を行うのが一般的(金券をのぞく)
②不正品申告義務:盗品を警察に申告する
取引をしている中で、「これは盗品ではないか?」と疑わしい場合は、直ちに警察へ通報(申告)しなければなりません(古物営業法第15条第3項)
申告が必要なケース
- 盗品と疑われる品物を買い取った場合
- 警察から「品触れ(手配書)」が届いた該当品を持っている場合
- 明らかに不審な取引
どんな時に疑うべきか?(買取での現場視点)
実務経験から、以下のようなケースは特に注意が必要です:
- 未開封の新品商品を大量に持ち込む個人
- 商品の相場を全く知らず、安値でもいいから急いで換金しようとする
- 同一人物が、短期間に何度も高額商品を持ち込む
- 年齢や職業に見合わない高額品を持っている
- 顔写真なしの身分証(例:国民健康保険証)を見ながら顧客カードに個人情報を記載
品触れ(しなぶれ)とは?
警察署から「品触れ(手配書)」という盗品のリストが定期的に届きます。これは「この盗品を探してください」という通知です。
品触れへの対応:
- 受け取った日付を記録
- 6ヶ月間保存
- 該当する商品があれば直ちに届け出る
申告方法
- 管轄の警察署に電話
- 品物の特徴を伝える
- 売主の情報を提供
質屋では、警察との協力関係を大切にしています。怪しいと感じたら、取引を中止して警察に相談するのが最善です。
※「品触れ」はデジタル化が進んでいます。昔は警察官が紙の手配書を配りに来ていましたが、現在はメールや警察署の専用システムを通じて電子的に通知されることが一般的になっています。 「郵便受けを見ればいい」ではなく、登録したメールアドレスやシステムを毎日チェックする習慣をつけることが、現代の古物商には求められています。
③取引記録義務:帳簿をつけて保存する

古物商は、取引の内容を「古物台帳(帳簿)」に記録し、最終記載日から3年間保存しなければなりません(古物営業法第16条~18条)。
これは、万が一盗品が流通した際に、警察がルートを追跡できるようにするためです。
帳簿に記載すべき項目
- 取引の年月日
- 古物の品目及び数量(13品目のどれか)
- 古物の特徴(ブランド名、型番、シリアルナンバーなど)
- 相手方の住所・氏名・職業・年齢
- 本人確認の方法(「運転免許証にて確認」など)
帳簿の形式
特定の「指定用紙」はありません。記載事項が網羅されていれば、以下の形式でも問題ありません:
- 大学ノートなどの紙の帳簿
- エクセル(Excel)などのデータ管理
- 専用の古物台帳ソフト
ただし、警察の立ち入り検査の際に、すぐに表示・印刷できるようにしておく必要があります。
保存期間
最終記載日から3年間
この期間を過ぎた帳簿は、廃棄しても問題ありません。ただし、税務調査の可能性も考慮し、7年程度保存することをお勧めします。
記録が免除されるケース
本人確認と同様、一部の取引では記録義務が免除されますが、自動車、美術品、時計・宝飾品などは、金額に関わらず記録が必要な場合があります。
特に高額品を扱う場合は、全ての取引を記録することをお勧めします。
※実は、この「法定帳簿」を正しく記載・保存しておくことは、防犯(警察の立ち入り対応)だけでなく、消費税の納税(インボイス制度)においても非常に大きな意味を持ちます。
古物商だけの特権である「古物商特例」を使えば、相手がインボイス登録していない一般個人であっても、この帳簿を保存するだけで仕入税額控除(節税)が認められます。
逆に言えば、帳簿に不備があると消費税を余分に払うことになる可能性があります。損をしないためにも、ぜひ下の記事で「古物商特例」の条件を確認しておいてください。
👉古物商とインボイス制度|古物商特例・質屋特例を解説
記載事項の書き方や、Excelを使った管理方法の具体例については、
「古物台帳(帳簿)の書き方|記載事項・Excelテンプレート・保存期間」で詳しく解説しています。
違反した場合の罰則

これらの義務を怠ると、重いペナルティが科せられます。
本人確認義務違反
- 6ヶ月以下の懲役 または 30万円以下の罰金
- 営業停止命令
- 許可取り消し
取引記録義務違反(帳簿の記録義務違反・虚偽記載)
- 6ヶ月以下の懲役 または 30万円以下の罰金
- 営業停止命令
- 許可取り消し
不正品申告義務違反
- 営業停止命令
- 許可取り消し
実際の処分例
違反が悪質な場合、公安委員会から営業停止命令が出たり、最悪の場合は許可を取り消されたりします。一度許可を取り消されると、5年間は再取得できません。
実務経験から見た注意点
「知らなかった」は通用しない
古物商許可を取得した時点で、これらの義務を知っているのは当然の前提として扱われます。古物商許可の申請方法と必要書類で許可を取得した後は、必ず三大義務を守る必要があります。
帳簿は習慣化する
「後でまとめて書こう」は危険です。取引のたびに記録する習慣をつけましょう。
不審な取引は断る勇気を持つ
「この取引、何か変だな」と感じたら、無理に買い取らないことです。盗品を買い取ってしまうと、買取代金はほぼ戻ってきません。
警察との良好な関係を築く
古物商プレートの作成と設置方法でも解説していますが、プレートの掲示など、法令を遵守する姿勢を示すことで、警察との信頼関係を築けます。
よくある質問(FAQ)
- Q1万円未満の買取でも本人確認は必要ですか?
- A
原則として免除されますが、ゲームソフト、CD・DVD、書籍、バイク関連は1万円未満でも本人確認が必須です。また、複数回に分けて買い取る場合、合計金額が1万円を超えれば本人確認が必要になります。
- Q宅配買取で免許証のコピーを送ってもらうだけではダメですか?
- A
はい、違法です。非対面取引では、本人限定受取郵便、eKYC、または住民票の原本+転送不要書留など、法律で定められた方法が必要です。これを怠ると、営業停止や罰金のリスクがあります。
- Q帳簿をつけ忘れた場合、どうすればいいですか?
- A
気づいた時点ですぐに記載してください。記載漏れが警察の検査で発覚すると、営業停止のリスクがあります。日々の取引を習慣化して記録することが重要です。
- Q盗品を買い取ってしまった場合、どうなりますか?
- A
善意(知らずに買った)であっても、被害者から返還請求があれば無償で返さなければなりません。買取代金は戻ってきません。ただし、警察に申告して協力すれば、刑事罰は免れます。
- Q三大義務を守らないと、すぐに許可取り消しになりますか?
- A
一度の軽微な違反で即取り消しにはなりませんが、繰り返し違反したり、悪質な場合は営業停止や許可取り消しになります。一度取り消されると5年間は再取得できないため、日頃から法令遵守を心がけることが重要です。
まとめ
古物商の三大義務は、面倒に感じるかもしれませんが、自身を守るためのルールでもあります。
ポイントのおさらい:
- 本人確認義務:買取時は必ず身分証を確認する(宅配買取は要注意)
- 不正品申告義務:怪しいと思ったら取引を中止し、警察へ連絡する
- 取引記録義務:帳簿は3年間保存する(エクセルでOK)
これらの義務を守ることで、「盗品を買ってしまった」というリスクを減らし、警察と協力体制を築くことができます。長く安定したビジネスを続けるために、クリーンな運営を心がけましょう。
参考リンク:
お困りの際は当事務所へ
古物商許可の取得は、必要書類の準備から警察署への申請まで、手続きが複雑です。また、「三大義務の具体的な対応方法は?」「帳簿のつけ方がわからない」「宅配買取の本人確認はどうすれば?」など、許可取得後の実務についても不安が多いです。
お問い合わせ方法:
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執筆者プロフィール
手島宏典 行政書士・現役質屋店長
業界歴10年以上。大手買取店FC3年経営。
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